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スノードーム

  • 執筆者の写真: tilltillteabrunch
    tilltillteabrunch
  • 6月14日
  • 読了時間: 3分

ひっくりかえされたスノードームをもう一度ひっくりかえす。そっとテーブルに置くとゆらゆら雪が舞い落ちる。


 雪のない国に生まれた私は雪に憧れている。白くてふわふわ、雪遊び、雪まつり。私の知らない世界が雪国にはある。


 私にとってスノードームは憧れのかたまりなんだ。私の手のひらに収まるサイズがかわいい。中には雪国のお屋敷、煙突にはサンタクロースがいる。こんな世界に私も住みたい。


 ある日、街を歩いていた時だった。蚤の市が開かれている。色々な雑貨を売る店、食べ物を扱う店、たくさんあった。木の影になった場所にその店はあった。


 「スノードームの世界へいきませんか」


 そんなPOPが地味な色合いで掲げられている。広げられた絨毯の上には大小様々なスノードームが並べられていた。私は花に誘われる蝶々のようにふらりと立ち寄った。


 「いらっしゃいませ」


 店主は初老の男性だ。


 「お嬢さん、お気に入りはありますかな?」


 話しかけられて戸惑う。咄嗟に目についたひとつを指差した。


 「これが、素敵だなと思います」


 両手のひらに収まるサイズのスノードームだった。その中には白い雲が敷かれている。雲からは透明な針金のような棒が出ており、その先には青空色のくじらがいた。くじらの背中には羽が生えている。スノードームの雪は白い雪にキラキラしたラメが混ざっている。さぞかし美しく雪が舞うに違いない。


 「ありがとうございます。ぜひお手に取ってみてください」


 促されるまま、スノードームを手にする。ずっしりと重い。土台は深い紺色だ。白い小鳥や雲のイラストが描かれている。なんとなくひっくりかえすことに抵抗があったので、スノードームを揺らしてみた。きらり、きらり、雪が輝く素晴らしいものだった。見惚れていると、店主が声をかけてきた。


 「ここにある全て、私の手作りなんです。実は私のスノードームには秘密があります。夜、眠る前に枕元に私のスノードームを置く、すると良いことがあります。奇跡、一度だけあるかもしれません」


 店主の一言、そして何よりこの素晴らしいスノードームを手元におきたかった。


 「これ、ください」

 「ありがとうございます」


 丁寧に梱包されたスノードームを持ち帰る。けして安くはない金額だったが、それを超える魅力がある。


 夜になった。私はスノードームを一度ゆすった。キラキラ舞い散る雪が美しく、うっとりする。枕元のサイドテーブルにスノードームをおいて、まぶたを閉じた。




 私は、空にいた。夜明け、薄紫の雲の中を飛んでいる。柔らかな雪が冷たくて心地良い。風がふわり吹き抜ける。どこまでも、どこまでも行けそうだ。太陽と共に、翼のはえた青空色のくじらが雲の中から姿を表した。くじらはゆったりと私を追い越して空を飛んで行った。いつまでも、この空を飛びたかった。




 目覚めたら朝になっていた。夢、スノードームの世界に私はいた。枕元のスノードームをみつめる。素晴らしい体験だった。現実にはありえない現象だった。しかし本当に空を飛んでいるみたいだった。


 私は今宵も枕元にスノードームを置いた。しかし同じ夢は見られなかった。そうだ、奇跡は一度、店主が言ったことを思い出す。また、あの空に行きたい。だからあのスノードーム店にもう一度行こうとした。しかし見つからなかった。奇跡は一度。探さない方が見つかる、そういうことがあるのかもしれない。またいつか、そう信じて私は今日もスノードームをみつめる。

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