白い紙
- tilltillteabrunch
- 6月14日
- 読了時間: 4分
A4の白い紙が目の前にある。にごりのない白色がちかちか、目にまぶしい。もちろん何もかかれてはいないし、折り目だってついていない。
これはある意味、完璧な姿だ。これから何かしらを印刷されるこの紙、決して汚してはならない。何かを印刷される、あるいは何かに使われるまで、この紙は白くあり続けなければならない。白くあることを求められている。
「みんな、何をかくか決まりましたか?」
先生の声が教室に響く。
自由に表現をしましょう、ある日の美術の授業のことだった。A4の紙1枚が配られて、先生が言う。
「何でも良いの。あなたたちの想像力を使って表現してください。1時間、紙をどう使うかはあなた次第よ」
私は困り果てた。
「先生、授業がめんどくさくなったのかな?」
ひそひそ、隣の席の友人が声をかけてくる。
「いつも何かしら課題やお題があるのに。変なの」
友人は少し悩んでから鉛筆で何かを紙にかきはじめた。私は動けないままだった。
自由、私が苦手とする言葉なんだ。何か課題があればそれに向けての道筋とゴールがある。わかりやすい。でも自由なんて未知ばかりだ。自分で課題を決めて、正しいかもわからない道を手探り、ゴールだっていつかもわからないんだから。
まわりを見回してみた。みんな自分の世界に入っているみたいだった。絵の具を準備したり、紙を折ったり、何もしていないのは私だけだった。いや、もう1人動かない人がいた。
それはちょっと気になる人だった。気になるといっても異性ではなく同性、女の子だ。彼女は教室に来たり来なかったりでクラスに馴染めないのではなく、馴染まない、気がした。視線を机の上に戻す。そう、こんな真っ白な紙に似ているんだ。
「悩んでいますか?」
先生が彼女に話しかけていた。私はひそかに聞き耳をたてる。
「いいえ」
彼女は首を振ってこう言った。
「何もしないこと、それも自由な表現のひとつだと思います。だからこれが私の作品です」
私はびっくりしたが、先生は満足そうにそうね、と笑い彼女の側を離れた。その伸びた背筋と物言いにひどく憧れてしまう。とはいえ時間は過ぎてしまう。私は彼女のようにはなれないから、だから何かしらを紙に表現しなくてはならない。
私は、私に手紙を書くことにした。今の正直な気持ち、自由という言葉の不自由さ。書きはじめると、筆が止まらなかった。
「はい、お疲れ様でした。作品は提出する必要はありません。この時間で大切なことは自分が何をしたいか、何ができるのか、そう自分に問いかけることですから」
彼女はすでに美術室を出ていた。白い紙はそのまま彼女の机の上に置いてある。追いかけてみようか、と思った。だけどできなかった。彼女はきっと自由とともにある人なんだ。白いまっさらな道でも自由に歩ける人。
私の紙には私の思いがびっしり詰め込まれている。これも自由な表現だ。だけど、彼女の真っ白な紙にはとうていかなわない、そう思う。
自由とともに歩む彼女、彼女の隣を歩けたら、私は自由が怖くなくなるのかな。自由の意味がもう少しわかるのかな。
同じ1時間を過ごしたのに、こんなにもこたえがちがう。強く歩む彼女と迷い続ける私、多分正反対だ。
追いかけたい。ただそう思った。あの白いシャツのすっと伸びた背中を。まっすぐな眼差しの理由を。あの白い紙の自由を知りたい。
私は私の手紙をそっと彼女の真っ白な紙の隣に置いた。白と黒、やっぱり違う。彼女の真っ白な紙は何も語らないのに強い意思を感じる。軽やかな白、重苦しい黒。
突然、まぶしい光が窓から差し込んで2つの紙を照らした。どちらも色がわからなくなるくらい、まぶしかった。それを見て私はひとつ思った。
私も表現ができたではないか。私は手紙を書くことを選択した。何もできなかったわけではない。同じ紙に違う表現、同じ時間に違うこたえ。どちらも自由なんだ。
光が雲に隠れてもとの白と黒を取り戻した紙たち。光が私たちの隔たりを曖昧にして、溶かしてくれた気がした。
足を動かす。彼女の背中、今度こそ追いかけるんだ。自由な道筋で、自由に彼女と語りたい。もう白に、自由に怯えることはないんだから。



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