造花とドライフラワーと生花
- tilltillteabrunch
- 6月14日
- 読了時間: 4分
ここは花屋の店先、友人の誕生日を祝う花束を買いに来た。お祝いといったら花だろう、花があれば華やかになる、そんな単純な理由でここへ来た。
店員はにこやかに私たち2人を迎えてくれた。何かお探しですか、と柔らかに微笑みかけられた。友人の誕生日でして、と説明をする。穏やかで優しい雰囲気の友人にあう花束を作ってほしい、そう注文した。店員は快く了承し、店内の花をいくつか手にとる。彼女は白い花が好き、そう伝えれば候補をいくつか提案してくれた。
なんとなく話がまとまり、店員は花束を制作する作業に入った。どんな花束になるか、友人は喜んでくれるか、期待が高まる。
一緒に来た友人、彼は気まぐれに花を見ていた。あまり花に興味はないらしい。マリーゴールドをカーネーションと間違えていた。店員に相談したのも私で、彼は傍らでぼんやりしているだけだった。そんな彼がぽつり、と呟いた。
「造花はさ、偽物って言われるよね?」
彼はバラをしげしげと眺めながら、トゲがない、などと言っている。
「お店に並ぶ前にトゲはとっているんだよ」
バラにトゲがあることは流石に知っているんだ。
彼はいつも心ここにあらず、な空気を纏っていた。私と彼と誕生日を迎える友人は幼馴染だ。いつもボーっとしている彼を放っておけなかった私たち、気がついたらいつも3人で過ごしていた。
造花、彼の言葉を頭の中で反芻する。彼は言葉を続ける。
「ドライフラワーと造花、何が違うのかな」
「ドライフラワーはさ、本物の花を乾燥させたりして作るんじゃないかな。造花はプラスチックとか」
「本物と偽物」
彼は何を言いたいのだろう。
「造花があるのに、なんでわざわざ手間をかけてドライフラワーをつくるのか」
「それは、思い入れのある花、例えば贈り物だったり、好きな花だったりしたらいつまでもそばに飾りたいものじゃないの」
「じゃあはじめから枯れない造花でいいんじゃないの」
こたえにつまる。彼はいつもこうだ。こたえにくい話題をわざわざ取り出してきては私たちを困らせた。といっても彼に悪気はない。彼は多分、知りたいだけ。
「花は生きている、と思う。そのあり方というか、生命が花の魅力のひとつなんじゃないのかな。その生命の一瞬を切り取ったのが花束」
「造花は死んでいるってこと?」
「そもそも造花は人工的に作られたもので」
「花も人間が種から育てているけど」
「……」
そう、彼とはこんな風に取り止めのない話を延々としてしまう。彼はうつむいてこう言った。
「何が違うんだろうね。何が本物か偽物か、わからないや」
「おまたせいたしました」
店員が華やかな花束を抱えてやってきた。白い花がたくさんあしらわれた清廉な花束だった。
「ありがとうございます」
代金を支払って花屋をあとにする。
「造花が生きていないなら、ドライフラワーはどうなの」
「その話、まだ続くんだ」
彼の探究心の強さというかしつこい性分は知っている。
「ドライフラワーってさ花にもよるけど意味があるね。永遠とか変わらない想いとか、そういう意味が込められているの」
「ふうん」
「ドライフラワーは枯れた花、だけど生き続ける花だと思う」
「枯れない花なら造花と変わらない。じゃあ造花って何のためにある、偽物だよ」
「じゃあきくけど、精巧に作られた造花は、本物と見分けがつかないじゃない。そういうところに意味があるの。本物の植物が置けないかわりとかさ」
「俺が言いたいのはもっと違う話なんだけど」
「ああ、頭が痛くなるよ」
彼が言いたいこと、考えていることはなんとなくわかる。私のこたえが彼の思うところとずれていることもわかる。だけど彼の探究心を満たす言葉も想いも私は持ち合わせていなかった。いつもそうだ。
「とにかくさ、この花束をわたしたらあの子はきっと笑顔になってくれる」
「ああ、そうだね」
「あの子を笑顔にしたい、その想いは本物でしょう?」
「うん」
「それで良いじゃない」
「うん」
結局、彼の疑問にはこたえられない。造花とドライフラワー、生花、違いはなんだろう。彼の疑問はいつもいつも私に新たな発見をくれる。
「生花の花束とドライフラワーの花束と造花の花束、どれが良いのかな」
どれも花に違いはない。でも私ならば生花の花束とこたえてしまう。ドライフラワーは綺麗だけれど何か違う。やっぱり私の中にも造花は偽物、価値は生花に劣る、そんな考えが根付いているのだろうか。
「生花に本物に価値を感じるのはなぜかな」
「花は散るからこそ美しいってこと」
「儚さ」
「そう」
「刹那」
「うん」
こたえのないやりとりを続ける。多分、あの子の家に着いても終わらないだろう。
「生命を切り取るのは残酷じゃないの」
「そうかもしれない」
疑問は次から次へとわいてくる。こたえは相変わらず出ない。それでもこの時間が苦ではない。彼の口から出てくる言葉は生花、そしてドライフラワーのように私の心に記憶に残り続ける。言った本人は忘れているだろうことも私は覚えている。今日も私は彼の花束みたいな言葉を受け取っている。



コメント