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ご褒美をあげるのは

  • 執筆者の写真: tilltillteabrunch
    tilltillteabrunch
  • 6月14日
  • 読了時間: 4分

 12月の終わり、賞与が出た。昨年よりも多くもらえた。頑張った成果だ、そこそこの結果に胸があたたかくなる。見てくれる人がいたんだなって嬉しくなる。


 金曜日の夜、街に飛び出した。何か、何か自分にご褒美をあげたい。最寄りの駅ビルに向かって歩く。年末の街は祝福するようにイルミネーションがきらきら瞬いている。スキップしたい気持ちを抑えた。


 新しい靴が良いかな、コートやバッグも良い。気になっていたちょっと高いコスメとか。それとも読みたかった新書が良いかも。ああ、美味しいお菓子が良いかな。軽い足取りで駅ビルの入り口をくぐる。


 香水の香りに包まれた1階フロア。煌びやかなデザインに惹かれてふらり、ディスプレイを眺めた。蝶々のように気になる商品のもとへと止まっては、また新しい花、商品のもとへ飛び立つ。


 2階フロアは華やかな洋服やアクセサリーが並んでいる。猫のように人や棚にぶつからないように通路を闊歩する。何着か試着もしてみた。


 3階には書店がある。少し立ち読みをした。目を引く表紙のイラストや写真たち。文庫本の裏表紙を見る。あらすじを読んで気になった物語を数ページ読んでみる。何に惹かれるのかは自分次第だ。


 地下1階は食品フロアだ。他の階よりも混み合っている。どこもかしこも美味しそうな食べ物で満ち満ちている。鮮やかなお惣菜、みずみずしい果物の乗ったケーキ、どれも魅力的だ。


 1階、2階、3階、地下1階、まわりながら私の心はだんだんしぼんでいった。しかしそれに気がつかないふりをして進み続けた。


 とうとう行き場をなくし、私は駅、帰り道に向かった。電車を待ちながら悲しい気持ちがとうとう隠しきれなくなる。


 ほしいものが、わからない。


 気がついたら私はそうなっていた。昔からそうだ、自分のことがわからない。自由に買い物をする、楽しいはずなのに私は苦しい。選べない。好きなものがわからない。


 今日目にした全てはとても素敵なものばかりだった。だけど、これ、と決定することができない。何かを気にしているように、彷徨う心。正しいを探している。正解、これを選べば問題ない、そんな許しを買い物で探している。


 そんなもの、あるはずないのに。


 好き、がないわけではない。だけど、わからなくなる。混乱するとかではない。良いなあと手にしてみる、それでも本当に欲しいものではない、違う、そんな気がして棚に戻してしまう。


 考えすぎだ、そう思う。


 ホームに電車がやってくる。通り抜ける風が髪を乱した。手櫛でなおしながらにじんだ涙を密かにぬぐった。


 電車に揺られながら窓にうつる自分と向き合う。


 私は誰に許されたいのだろう。誰のための正解を探しているのだろう。わからなかった。暖房がきいているはずなのに指先が冷えてきた。


 どうして私は選べないのだろう。例えば誰かのためのプレゼントならば簡単に決められた。その人の喜ぶ顔を思い浮かべながら贈り物を考える。難しくはない。それは楽しい時間だ。


 今日、色々を見て手に取って私の心は喜びと同時に虚しさとも言える感情を覚えた。これじゃない。ほしいのに、ほしくない。ほしいものがわからない。


 考え続けていたら自宅の最寄駅に着いてしまった。人混みに流されながら改札へ向かう。寒い、寒くて仕方なかった。這うような気持ちで駅をぬけた。


 外はもうすっかり暗く寒かった。もう、家に帰ろう。すると強い風が吹いてきた。たまらず立ち止まって風をやり過ごす。また乱れた髪がうっとおしくて、振り払いながら、空を見上げた。


 透き通る空には星々が光っている。あ、と思った。流れ星だ。一瞬の光に心奪われた。


 星に願うよりも前に私は思った。あの流れ星はどこへ向かったのだろう。行く先のわからない軌道に乗ってあてのない旅へ。そんなことを考える。


 行く先はわからない。それでも流れ星は空をかける。ずっと広く広大な宇宙の旅だ。一筋の光がずっと目に焼き付いている。


 私ってちっぽけだな、そう思って笑いたくなった。家に帰ろう。今日はそれで良い。


 いつか、あの流れ星のように旅をしたい。行く先がわからないならば、ほしいものがわからないならば、わからなくても、わからないままでも良いんだ。


 そう思ったら、心を締め付けていた何かがほどけていく気がした。


 行き先のわからない旅、今だってきっと旅の途中なんだ。いつか、わからないがわかる日、わかる旅ができるかもしれない。自分で選べる日がくるかもしれない。


 そんなこたえ、というご褒美を空からもらった夜だった。

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