柚子胡椒の材料
- tilltillteabrunch
- 6月14日
- 読了時間: 2分
「柚子胡椒が何でできているか、知ってる?」
そうきかれて、え、と戸惑った。
「柚子と胡椒でできてるんじゃないの?」
友人は首を横に振った。
「柚子は正解。あとはね、唐辛子と塩なんだ。ここで言う胡椒ってのはね、九州の方言で唐辛子を意味するらしいよ」
へぇ、まぬけな声が出た。友人はたっぷりと柚子胡椒をつけて大根を食べた。美味しい、友人は満足そうにしている。鍋の湯気が目に染みる。
「柚子胡椒のこと、美味しい薬味ってことしか知らないな」
何の気なしに呟いたら言葉に友人はうんうん、頷く。
「私はさ、それが言いたかったの。何も知らないで口にしている食べ物。私たちって知っているようで、何も知らないの」
友人の言葉に今度は私が頷く。
「そうだね、例えばこのスマホのことなんてよくわからないのに使っている。仕組みとか使い方、なんとなくでできちゃう」
「スマホがすごいのか、私たちがすごい、いえ鈍くなっているのかも」
友人は定まらない視線で鍋を見つめてこう言った。
「私たち付き合い長いじゃない。会えば楽しく過ごしている。だけどそれはお互いに知らない所があるから、成り立つのではないかなって」
「柚子胡椒の材料を知らないみたいに?」
「そう。知らなくても美味しい、楽しい。柚子胡椒はさ、知っても美味しさに変わり無いし」
友人の言葉に少し不安を覚えた。それは揺らいだ友人の心を感じたからだ。
「知らないこと、あのさ、知られたくないことってあるの?」
踏み込み過ぎたかもしれない。
「ううん、例え話だから。深く考えないでね」
友人の笑顔がなんだか固い気がしてくる。私は思う所を伝えてみた。
「あなたのこと、知らない所がたくさんあると思う。知りたい気持ちはあるの。だけど、あなたが話したくないならきかない。きかせたくないなら一生知らなくてもいい、そう私は思う」
友人は微笑んだ。
「ありがとう。あなただから私はここにいられるの」
「ううん、こちらこそ。さ、食べよう」
友人はまた柚子胡椒をたっぷりつけながらにっこりした。
「私、柚子胡椒がもっと好きになったよ」



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